心理学

感覚を育てること

私たちは普段、歩いたり走ったり、会話をしたり、ご飯をおいしく食べたりできていますね。それは土台となる感覚が育っているからなのです。感覚は日常生活を送る上でとても大切なもの。幼い頃から、日常生活でさまざまな刺激を受け取って、感覚は育っていきます。しかし、人によっては感覚が育ちにくい体質だったり、脳内での情報処理がうまくいかなかったりする場合があります。それにより、コミュニケーションや注意集中が難しいと感じたり、うまく身体が動かせなかったりして生きづらさを感じる人もいます。

感覚は「識別感覚」と「原始感覚」の2つに大きく分けることができます。「識別感覚」とは周囲の状況を把握するための感覚のこと。主に五感と呼ばれる、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚が当てはまります。「原始感覚」とは身体を安定させたり、動かしたりするための感覚のことです。例えば、私たちは物を持ち上げるとき、重さを感じますね。これは原始感覚の中の「固有感覚」という感覚を使っています。また、満員電車で立って乗っているとき、バランスを保とうとしますね。このバランスを感じ取るときには「前庭(ぜんてい)感覚(一般的には、平衡感覚やバランス感覚とも呼ばれています)」を使って情報を得ているのです。

アメリカの作業療法士であるエアーズは、学習に困難を抱える子の多くは、姿勢を保つのが苦手だったり、注意集中が続かなかったりなど感覚を育てる過程でつまずきがあることを発見しました。そこで、感覚のつまずきにアプローチする「感覚統合療法」を考案しました。幼い頃は、発達途中の固有感覚を発達させるために、固有感覚を使う活動を無意識にたくさん行います。たとえば「常に走り回る」、「高いところから飛び降りる」などです。これを「自己刺激行動」と呼びます。これは生物が感覚を育てるために必要な行動。感覚が育ってくると自然になくなっていきます。しかし、発達に遅れや偏りがあったり、元々感覚が育ちにくい体質だったりする子は、強く身体に刺激を入れようとします。そのため、周囲からは「落ち着きがない」「我慢できない」「問題児」などと見られてしまうことも。しかしこれは無意識の行動なので本人も止められないのです。

周囲で「この子落ち着きがないな」「困った子だな」と思ったときには、このブログを思い出してください。「これはこの子の発達に必要な行動なのだ」と捉えることができ、今よりも少し楽な気持ちで見守ることができるかもしれません。

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